20080908_170850ロンドンでは2ヶ月間暮らした。しかしヨーロッパでもそうであったが、ここでも日本人の若者たち(自分もまだ21歳)は日本人社会を作ってロンドンに溶け込もうとしていなかった。道を歩いていると日本人から必ず声をかけられた。

次第に日本人から逃れることを考え始めた。

ある日ユースホステルに出かけると、イスラエルの「キブツ」という集団農場でボランティアを募集しているという情報を入手した。

当時、イスラエルと周りのアラブ諸国は停戦中であった。まだイスラエルが周りのアラブ諸国と国交を開いていない時代である。イスラエルの若者の大半が兵隊に取られていたため、キブツでは常に労働力が不足していたのだ。世界中から若者が集まっているという。

その日にピカデリーサーカスにあったキブツ協会の事務所を訪ね、キブツ行きを決心した。

230あるキブツの中から、日本人が一人もいないキブツを希望した。キブツが社会思想に基づいた理想的な共同体を目指しているという事実より、「日本人から逃れたい」「もっと英語を使って生活をしたい」という自分の内側から湧き出てくる欲望に忠実に行動することにした。イギリスを離れる前にスコットランドへヒッチハイクの旅に出かけた。途中、高速道路を歩いていてパトカーに捕まったが、逆にパトカーをヒッチハイクしてYorkのユースホステルに横付けしてもらった。

まさかの一文無し、、、

アルバイトで貯めたカネで、アムステルダム、イスタンブール経由でイスラエルのテルアビブ空港までの片道切符を買った。イスタンブール空港に着いたのが夜の9時。ユースホステルの受付時間には間に合わない。そこで飛行機で隣り合わせになったトルコ人の大学生と安い宿を探して泊まることにした。日本円にして一泊70円の宿である。トイレの水はチョロチョロ。6畳ぐらいの部屋には3段ベッドがぎっしりと備え付けてあって、12名が収容された。

104805翌朝目が覚めたとき、その部屋には私とトルコ人の大学生以外はすでに誰もいなかった。空港行きのバルターミナルまで送っていくと言うので、彼に荷物を持ってもらった。信号待ちをしているときのことである。

「ちょっとタバコを買ってくる」と言い残して私の目の前からひょっと彼が消えた。その瞬間、何かいやな予感がした。案の定、二度と戻って来ることはなかった。しかも私の唯一の財産のカメラを持ったまま。リュックをチェックすると、ロンドンで買ったズボンとシャツもなくなっていた。財布からは現金も抜かれていた(おそらく寝ている間に)。

結局、手元に残ったのはパスポートとイスラエルまでの航空券、2枚のTシャツに下着と洗面道具、あと小銭が少々。

ショック!何よりも友情を裏切られた気がした。これで全くの一文無しになった。これからどのような生活が待っているかだろうか。停戦中とはいえ、アラブ諸国を敵に回して戦っているイスラエルに向かっている。いざという時、一文無しで脱出できるであろうか。急に不安が襲ってきた。しかしNo choiceである。イスラエルに向かうしかない。

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